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鼻とれトンネルー地域に伝わる子供を怖がらせる伝説

その昔「鼻とれトンネル」というトンネルがありました。

それは地元の子供たちの間でまことしやかに噂される、

通ると鼻がとれるというトンネルです。

  

国道沿いにある空地は子供たちの恰好の遊び場となっています。

その向こうには竹林が広がるのですが、

どうやらその奥に「鼻とれトンネル」はあるようです。

子供たちはそんな噂どこ吹く風で遊びに夢中なのですが、

陽が暮れかかった頃になると、その噂への恐怖を背中に感じながら、

足早に帰るのです。

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ある日、男女数人で遊んでいた子供たちは、

好奇心から竹林の向こうに探検に行くことにしました。

勇気ある男の子を先頭にして、

後ろに続く子供たちはみんな前の子の背中のシャツをつかんでいます。

一番気の弱い女の子が言います。

「竹林で迷子になったらどうするの?帰ろうよ!」

先頭の男の子は答えます。

「迷子になんかならないよ!怖いならお前だけ帰れば!?」

そうは言っても竹林に足を踏み入れてしまっているので、

女の子は一人で帰ることもできません。

怯えながらも前の子のシャツをしっかり握ってついて行くしかなかったのです。

 

とても長い時間竹林を歩き続けたように思った時、

薄暗かった竹林が開け、小さな池に出ました。

池の周りは人が何とか歩けるような淵があり、舗装などされていません。

「なんだ!ここを抜けたらあの団地に出るんじゃないか!」

先頭で意気揚々と歩いていた男の子はホッとした様子で言いました。

「どこまで行けるかな?一周して戻ってこようぜ!」

その声につられるようにみんなは再び歩き出しました。

池の淵を一列で歩き進んで行くと、小高い丘に沿った道に繋がります。

 

しばらく歩くと、ぽっかり穴のあいたような暗い通路がありました。

「これって・・・」みんなの胸は今まで以上にザワザワしだしました。

「鼻とれトンネルだ・・・」一人の男の子が口に出すと、

一番気の弱い女の子は半べそになりました。

「怖い、怖い、怖い・・・早く通り過ぎて一周して帰りたい!」

しかしその願いも空しく、

「よし!入るぞ!!」

男の子たちは大声で掛け声をし、足を踏み入れようとしています。

女の子たちはもう何も言えませんでした。

嫌だと言えばこんな怖い場所に放っていかれるかもしれないのです。

 

そのトンネルは小柄な人が一人やっと通れる細さで、

小学生でも腰を曲げて歩かなければならないほどの狭さでした。

意気込んで突入した男の子たちでさえ足早に、しかし歩きにくそうに進みます。

女の子たちはただただ前の子のシャツを離さないように必死でした。

 

しばらく歩いたその時、先頭の男の子が叫びました。

「うわぁ!何だこれ!?早く!!出るぞ!!」

そして腰を曲げた姿勢のまま走り出したのです。

他の子たちはまだ見ぬものへの驚きと恐怖をかき消すかのように、

「わ~!わ~!」「きゃ~!きゃ~!!」と大声をあげながら走りました。

狭いトンネルにこだまする自分たちの声さえ気持ち悪く感じ、

一刻も早く脱出しなければとの一心でした。

それでも前の子のシャツを離さないように。

 

狭い通路を走るとも言えない速度で、それでも今までの速度より早く、

通り抜ける時、目に飛び込んできたものは・・・

 

 

壁面に堀り開けられた穴に立つろうそくの灯りでした。

 

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大声をあげながら、何とか全員トンネルを駆け抜け、

出口にたどり着いた先には、見慣れた団地の風景が広がっていました。

狭い空間から息苦しさを感じない場所に出た瞬間、

全員がホッと胸をなでおろしました。

が・・・子供たちと団地の間には出入り口のない緑のフェンスが張られていました。

みんなが無我夢中でフェンスをよじ登り、

本当に解放感を得られる団地の敷地にたどり着いたときにはすでに陽は暮れかけ、

いつものように、いえ、いつもより大きな恐怖を背中に感じながら、

子供たちは家路につきました。

 

そういえば、あの「ろうそく」。

子供たちの前に人はいませんでしたが、ほんの今つけられたような長さだったな。

しばらく燃えていた短さではなかったな。

一体誰がつけたものなんでしょう・・・

 

**********

 

実はこれ、私が小学生の時の体験談です。

空地でよく遊びましたし、

ゲーラカイトなどを揚げていると、風にあおられ竹林に墜落しました。

探しに行くのですが、竹林に足を踏み入れるのは怖く、

夕暮れになると竹林が風に揺れる音と、その動きに背中に恐怖を感じたものです。

それでも私たちには大切な遊び場の一つだったのです。

当時は本当に鼻がとれやしないかと怯える日々を過ごしたものです。

このトンネルはその昔、

防空壕として掘られたトンネルだということを大人たちから聞きました。

それを聞いて更に恐怖に震えたように思います。

竹林は子供心に感じたほど広いものではありませんでしたが、

その奥の池に行くこと、事故につながらない予防として「鼻とれトンネル」の話が

言い伝えられたのではないかと思います。

 

今は大概の池が囲いをされているし、竹林どころか空地さえ少ないです。

子供が思い切り遊べる場所が減っている。

広い公園は子供たちだけで行ける距離になく、休日わざわざ車で出かけることも。

近場の公園ではボール遊び禁止。

声をあげて遊んでいるとうるさいと言われる。

子供たちが屋外で頭を突き合わせてゲームをしているのもうなずけます。

それはそれで、

「最近の子は外でもゲームばかりで・・・」と言われることもあるのですが。

 

池の埋め立てや建物を解体した更地の上には次々新しい住宅が建っています。

近所に1カ所でも「空地」があればいいのになと思います。

遊具がなくてもいいんです。

年齢関係なく遊べる、声をあげても叱られない、そんな空地があれば。

子供たちがただの空地を楽しく走りまわる風景が戻ってきてほしいと願っています。

そしてそんな場所が出来たころには、子供たちを危険に近づけまいと、

また新しい恐怖による戒めの言い伝えが生まれているかもしれませんね。

 

 

 

ARIGATO☆